高校の同窓会が催された夜、雪道はずっと片思いをしていた仙光寺と再会した。
酔った勢いで体を重ねてしまい、その後も再燃した恋心は膨らむばかり。
だが、離れていた間に自分はチンピラ、仙光寺は社長になっていた。
釣り合いのとれない相手に不安を抱いた雪道はもう会うことをやめたほうが良いと告げる。
しかし、自分も雪道を想っていたと言う仙光寺は、及び腰になる雪道に猛烈なアプローチをしかけてきて……!?
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登場人物紹介
- 南戸雪道(みなみとゆきみち)
違法カジノバーで働く高萩会の下っ端。仙光寺が忘れられず、いまでも想いつづけている。
- 仙光寺慶一郎(せんこうじけいいちろう)
北仙不動産の社長。高校を卒業してからは雪道と疎遠になっていたが、同窓会の夜、偶然再会し…。
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───なにやってんだろうな、俺は……。
繁華街の路地裏にある小さな焼き鳥屋。煙が目に染みる薄暗いカウンター席で、南戸雪道は溜め息をついた。
ハイボールのジョッキを持っていないほうの手には、何度もゴミ箱に放り込まれては拾われるという無意味な行為を繰り返されたせいで、ややくたびれたハガキがある。
そこには角ばった大きな文字で、『同窓会のお知らせ』と記載されていた。
日付は今夜、開始時間は今から三十分ほど前。
開催場所は、ここからおそらく五百メートルも離れてはいない、大通り沿いの洒落たイタリアンダイニングの店だ。
───こんなもん、出るつもりはねぇ。どうせ出席するやつは、胸を張って現状を話せる幸せな連中だろう。これみよがしに一張羅着て、嫁さんや子供の画像を持って。……俺みたいに裏街道を歩いてる人間はおよびじゃない。そもそもクラスメイトなんて言っても、半分も顔を覚えちゃいないしな。
雪道は今年二十七歳。集まっているはずの元級友たちと同じ学舎にいたのは、十年近く昔のことになる。
高校生の頃いわゆる不良だった雪道には、同じクラスの友人が少なかった。
わずかにいた遊び仲間は、主に深夜の盛り場などで知り合った他校の生徒たちだ。
───だから同窓会に出たいなんて気持ちは、本当にこれっぽっちもねぇ……けど。
雪道がこうして同窓会の行われる繁華街までわざわざ出向き、すぐ近くでこうして酒を飲んでいるのには、わけがあった。
元級友の中でただひとり。時折思い出しては近況が気になっている、特別な存在がいるからに他ならない。
───正直……あいつの顔だけは見たい。……遠目でちらっとだけでいい。それくらいがちょうどいいんだ。正面きって白々しく社交辞令なんか言ったところで虚むなしくなるだけだ。
かといって今夜ここにいるのをわかってて、しらんぷりはできない。
賭場でのはした金のやりとりと酒と喧嘩にあけくれ、青春時代など霧のかなたに霞んですっかりやさぐれた雪道が、今も忘れることのできない唯一の相手、仙光寺慶一郎。
眉目秀麗で成績優秀、スポーツ万能。真面目なようでいて学校を一歩出れば不良たちを震え上がらせていた、どこか不思議な男だった。