小説

極上・快楽カウンセリング

著者
高月まつり
イラスト
緒笠原くえん
発売日
2020年3月19日
価格
700円(税抜)
楽にして、気持ちのいいことに集中して

生徒に人気の教師である響希の悩み……、 それは過去のトラウマのせいで勃起しなくなってしまったこと。 響希は“ナイトライフカウンセラー”として評判の古見仲のもとを訪れ、 男としての自信を取り戻そうと意気込んでいたが……。 お尻を弄られながら自慰する気持ちよさを覚えさせられ、強烈な快感に全身を震わせることに。 久しぶりの絶頂感を味わいカウンセリングを受け続けることを決めたが、 なぜか古見仲は響希の行く先々に現れ、診察と称して気持ちいいことを教え込んできて――!?

オンライン書店

  • amazon
  • 楽天ブックス
  • セブンネットショッピング
  • 紀伊国屋書店

電子書店

  • \amazon
  • ebookjapan
  • booklive

登場人物紹介

七瀬 響希【ななせ ひびき】

生徒に人気の高校教師だが、学校以外ではいたって地味な印象。じつは21歳から7年間も欲望で勃起したことがない。男としての自信を取り戻すべく、古見仲の元を訪れるが……。

古見仲 悠【こみなか ゆう】

動画配信サイトで『古見仲チャンネル』を配信。夜のお悩みのカウンセリングに定評あり。日常や動画の時には髪で目元を隠しているが、その素顔は――!?

試し読み

 新年度が始まってそろそろ一ヶ月になる。
 海外のマナーハウスによく似た造りの「水明館学園高等部」は、入学式の頃は騒がしかったが、今はもういつもの静けさを取り戻している。新入生たちも初めて入る高等部の校舎にようやく慣れたようで、廊下に備え付けてある校舎の地図を見るものはもういない。
 中等部と大学部は、広大な敷地内の大通りを隔てた向かいにあった。
 敷地内には「なんでも揃う」と重宝されている購買部や、クリーニングサービス、リーズナブルなヘアカットハウスなどがあり、まるで一つの街のような作りになっている。
 七瀬響希は、教師として初めてここに足を踏み入れたときに、大学卒業旅行で行ったイギリスの、貴族たちが使う別荘を思い出した。
 石造りの壁に、職人の技が光る床のモザイク、はめ殺しの窓から入る日光の角度まで計算してある、洗練された住まい。
 今も廊下を歩きながら、「贅沢な空間だな」と思う。
 そこを、黒のセーラー服と学生服の男女が歓談しながら通り過ぎると、映画のワンシーンのようだ。
 そして「部活に遅れちゃう!」と声を上げながら廊下を駆けていく生徒たち。
「廊下は走るなよ」と緩く叱ると、彼女たちたちは「七先生、今だけは許してください」と可愛いらしく両手を合わせてから再び走り出した。
「七先生と話しちゃった」「カッコイイよね」と小鳥のような声を聞かせてくれるのは嬉しいが、少々気恥ずかしい。 
 しかし「七先生」はやめてくれ。言うなら俺のいないところで言え。
 七先生こと七瀬響希は、「仕方ないなあ」と小さなため息をつき、この春から自分が責任者を務めている「水明館図書室」に向かった。
 図書室と言うには控えめすぎる、厖大な蔵書を誇る図書室は、水明館中等部・高等部の生徒たちが使用する。大学生たちはまた別の図書室を使用していた。
 響希の姿を見つけた受け付け係の高校三年生の女子生徒は、微笑を浮かべて優雅に会釈する。備え付けのパソコンで欲しい本を検索していた生徒も、響希に気づいて微笑みかける。 育ちがいいからなのか、人なつこく穏やかな生徒が多い。そして愛嬌があって可愛い。
 ……が、思春期のアレコレとなると、悩みと好奇心に育ちは関係ないようだ。
 自習エリアの一番奥の席で、四人の男子生徒が身を乗り出してデスクの中心に置かれた
 スマートフォンを見ていた。字幕でも読んでいるのか物凄い集中力だ。その集中力を試験でも発揮できるといいなと思いつつ、ゆっくりと近づいていく。
 響希は、スマートフォンの動画に集中している生徒たちの背後から「静かなのはいいことだが、自習か読書でない場合は帰宅しなさい」と声をかけた。
 場所が場所なので声を抑えたつもりだったが、生徒たちは驚いて椅子から落ちた。椅子の脚がぶつかる金属音がしたが、幸いにも、一番近いデスクで自習をしていた生徒が一人、
顔を上げて首を傾げただけだ。
「七先生、脅かさないでください」
「七先生じゃなく、七瀬先生だ。『せ』を省略するな」
「次回からそうします」
 四人揃って真顔で頷かれると、こっちもそれ以上突っ込めない。響希は軽く咳払いしてから「何を見ていたんだ?」と声のトーンを落として内緒話を持ちかけた。
「俺たちに大事な情報が、載っているんです」
「『古見仲チャンネル』って言うんです。カウンセラーがリスナーの相談に乗るというか、悩みを解決するというか……」
「見てもらった方が早いです。俺たちが見ていたのが、この字幕バージョンです」
 怪しげな動画だったら注意しなければならないので、とにかく見てみるかと、差し出されたスマートフォンで素直に動画を見始める。
 一人の男が映っている。黒髪がもふもふで目が見えない。目が隠れていてもふもふ毛皮の犬を思い出した。あの犬はなんという名前だったっけ。昔近所で飼われていた、長い名前の……、あああれだ。オールドイングリッシュ・シープドッグだ。
 名前が長いから逆に覚えていたと思い出してスッキリする。
 鼻筋は通っているし輪郭もシャープなのに顔の半分を隠すなんてもったいないと思う。
 もしや目元にコンプレックスでもあるのだろうか……なんてことを思っていたら、とんでもない単語が目に飛び込んで来た。
『ED、勃起不全』
 生徒たちが「うわ、今回はこれかー」「俺たちに関係ないんじゃ?」と小声で話しているが、響希は真剣な表情で字幕を追う。
『今、自分たちには関係ないって思った男性諸君、それは間違いだからね。要因はいろいろあるんだ。特に少年青年諸君は、心因性の勃起不全に注意して』
 なんだこれは……っ!
 とても気になるしじっくり見たい。好奇心を刺激されるコンテンツだ。しかしここは校内。学業に関係のないものを熱心に見続けることは教師として無理っ!
 響希は「ふう」と一息つくと、スマホを貸してくれた生徒に「ありがとう」と言って返した。
「見るなとは言わないが、次回からは場所を考えろよ?」
 生徒たちは「わかりました」と笑顔で言って、図書室からそっと出て行く。
 響希は頭の中で「古見仲チャンネル」と何度も呟いた。
 学校では「七先生カッコイイよね」と言われても、学校の敷地から一歩外に出たら「地味な人」になる。
 整った容姿と清潔を心がけた短髪、クリーニングされたスーツもアイロンの行き届いたワイシャツや磨かれた靴も、響希を輝かせるアイテムにならない。
 周りに溶け込む──と言えば聞こえはいいが、印象に残らないのだ。
 響希自身、印象に残るような行動をするタイプではないし、運動も頭の程度も平均点なので、印象に残りにくいというのもある。
 顔はいいのに印象に残らないのは不思議だが、変に目立ってあらぬ恨みを買うのは嫌なので、今はもう気にしない。
 友人たちの中では「七瀬は、顔はいいのになぜか地味でモブ」で通っていた。
 真顔で「その地味さは探偵になれるぞ」と言った奴もいる。
 それでも、仲のいい友人たちや弟は「好きなことに没頭してるときはきらきらしたイケメンになる」と言ってくれた。
 おそらくどちらも正解なのだ。
 地味でも彼女はいたし(今はいないが)、友人も多い。好きな仕事にも就いているのだから、地味ぐらいなんだ。顔はいいんだから地味でもいいと最近は開き直っている。
 そんな地味な響希は、帰宅ついでにどこかに寄るということもなく、まっすぐ帰宅する。
 少々年季の入った、小さな庭がある二階建ての建売住宅。去年ペンキを塗り直した金属門を開けて、敷石が埋まったアプローチを四歩ぐらいで歩ききって玄関ドアの鍵を開ける。
 玄関のドアを開けた途端に「お帰りー!」と元気な声で迎えられた。
「兄さん、今日はちょっと遅くない? まあいいけどさ」
「……え? なんでお前がいるんだ? 幸希。帰りが遅いのはお前の方だろう?」
 響希と違って、いつでもどこでも爽やかな笑顔が女子のハートを鷲摑みにするタイプのイケメンである弟を前にして、響希は首を傾げる。
 大学二年の弟は、今日は彼女とデートで帰宅が遅くなると聞いていたのだが。
 靴を脱いで自分のスリッパを履いたところで「まあそうだけど」と幸希が言う。
「唯ちゃんが、『おうちでご飯を作ればみんな一緒にご飯が食べられるよね』って言ってくれたから、夕飯の支度をしてた」
 幸希の後ろから、シェフのような白いエプロンを着けた可愛い女子が姿を現す。肩までのボフヘアがさらりと揺れる様も可愛い。
「お義兄さん、お帰りなさい。今夜は酢豚とコーンスープですよ」
「唯ちゃんが作ってくれた酢豚だから旨いよ。早く着替えてきてよ。みんなで食べよう」
 七瀬家は、三年前に両親が事故で亡くなってから兄弟二人で暮らしてきた。
 葬儀の後に親戚が「兄弟二人でやっていけないだろう」「幸希君だけでも引き取るよ」と言ってくれたが、当の幸希が「兄さんと一緒がいい」と言ってくれたのもあって、今ま
で二人で暮らしてきた。
 たった二人の兄弟だからと弟のことを甘やかしすぎたかもしれないが、幸希は何一つ響希を困らせることなく大学生となった。そして今は、将来を約束した可愛い恋人と、料理
を作って待っていてくれる。
 結婚に関しては「社会に出たらもっと多くの出会いがあるだろう。それから決めてもいいんじゃないか」と言ったことがあるが、幸希は「唯ちゃん以上の相手に出会えるはずが
ない」、唯は「幸希君が運命の人」と言って、逆にこっちが「いい人はいないの?」と責められた。
 向こうのご両親も公認のようで、幸希は「大学を卒業したらプロポーズして、二十五歳に結婚」という計画を立てている。響希は今から、弟の結婚式で泣く準備をしていた。
 一階奥は書斎だが、本好きの響希は続き部屋を改装して自分の部屋にしている。
 天井までの本棚に埋め尽くされた部屋は、響希の癒やしの空間だ。
 スーツをハンガーに掛けてクローゼットにしまい、ジップアップのパーカーとスウェットに着替える。ワイシャツと靴下を脱いだところで「ふう」と息をつき、ベッド脇に積んである今週の楽しいノルマを見つめた。
「よし。待ってろよ。後でゆっくり読んでやる」
 ひとりごちてから、脱いだワイシャツと靴下を持って部屋を出た。
 まずは洗濯物を洗濯機に突っ込んで、それから洗面台で手を洗ってダイニングに直行する。
 唯は料理が上手いので、今夜の酢豚も大いに期待できた。
「唯ちゃんを送ってくる」と言って幸希は家を出た。
 いい心がけだ。それに響希は、いくら将来を約束しているからといって弟の恋人を家に泊めたりはしない。泊めていいのは天災人災のたぐいで家に帰れない一大事のときだけだ。
「兄さん、先にお風呂入っててよ。あと、洗濯物も洗濯機に入れておいて。大学は明日は昼からだから、俺に洗濯は任せて!」という弟の言葉に甘え、風呂に入った。
「さて」
 さっさと部屋に戻ろう。今夜は重要な調べものがある。
 そうだとも。ただの重要ではない。最重要だ。弟が帰ってきていきなり部屋に入ってこないように、部屋のドアには鍵をかけておかなくては。
 パジャマ代わりの長袖のTシャツとハーフパンツ姿で、冷えたお茶のペットボトルを冷蔵庫から取り出し、小走りで自分の部屋に向かった。
「待っていろよ、古見仲チャンネル……!」
 後ろ手で部屋の鍵をかける仕草に多少のやましさを感じつつ、愛用のパソコンを立ち上げながら椅子に腰を下ろす。
 左耳にイヤホンをつけて、生徒たちに教えてもらった動画配信サイトを検索した。
 探し物は、大手動画配信サイトのトップページにあった。
 特集でもされているのか、堂々とした「古見仲チャンネル」のサムネイルをクリックし、ふうと一息ついてアーカイブを確認していく。誰でも見られる無料のアーカイブは生徒たちが見ていたものだ。もう一つのアーカイブは有料会員だけが見られるもので、「古見仲チャンネルの申し込みはこちら」というボタンが光っていた。
「う……。EDや心因的要因はこの先にあるのか……?」
 どうする俺。まずは無料アーカイブを見てからにするか。テーマが目立つだけで内容が伴っていなければ損だ。しかし……っ!
 響希はきゅっと唇を嚙んで悩んだ。
 右手でマウスを握りしめ左手を口元にあてがいつつ、古見仲のプロフィールに視線を移した。
 ──心療内科医と公認心理師の資格を持ち、現在は古見仲ライフカウンセリングの所長を務めている。中でもナイトライフにおけるカウンセリングに定評がある──。
「ナイトカウンセリングって……ナイトだから、あっち方面でいいのか?」
 生徒たちと見た動画の内容も、下半身関係だった。
「とにかく今は、無料の……」
 手のひらがじわりと汗をかいていくが、ここは冷静に。
「もしや、これはライブ配信というものでは?」
ピコピコと文字が点滅している無料の古見仲チャンネルがある。響希は真顔でそのチャンネルをクリックした。

  • 作品へのご意見・ご感想
  • 原稿募集