小説

王様に告白したら求婚されました

著者
砂床あい
イラスト
北沢きょう
発売日
2017年7月20日
価格
680円(税抜)
どこにも行かせません。あなたは私のものです。

天才脳外科医として世界を飛び回っていた鷹臣は、大国オズマーン王国で、国王の姪を手術することに。そこで若く美しき国王・イスハークに懐かれ、健気にアプローチされるうちに惹かれる心を抑えられなくなっていく。ある晩、鷹臣は思い余ってイスハークに告白するが、彼はその場から走り去ってしまった。しかし、翌朝以降イスハークから宝石や油田が贈られ、しかもそれはオズマーン流のプロポーズだったと告げられて……!?

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登場人物紹介

イスハーク

オズマーン王国の現国王。亡き前国王の甥と姪を寵愛しており、脳腫瘍に侵された姪を救うため鷹臣を招請した。

遠野鷹臣(とおのたかおみ)

世界トップレベルの腕を持つ脳神経外科医。今回のオズマーン出張のために髭を生やした。

試し読み

 窓の下には、白い雲が一面に広がっていた。
 フライトは順調で、あと数時間もすれば目的の地にたどり着けるだろう。ゆったりとしたファーストクラスのシートに凭れ、遠野鷹臣はテーブルの上に乗せた高精細のモバイルPCに長い指を滑らせる。
 世界トップレベルの腕を持つ脳神経外科医のその指先が、『奇跡の指先』と呼ばれるようになってどれだけの月日が経つだろう。
 研修医時代を国内最高学府の脳神経外科医局で過ごし、留学先の米国でさらに研鑽を積んだ鷹臣はいま、『神の手を持つ』医者として世界に名を轟かせる。
 だが、画面を見つめる鷹臣の顔色はいささか優れなかった。
「なるほど……こりゃ位置が悪いな」
 短く整えられた黒髪に、すっと通った鼻梁。やや肉厚の形のよい唇。すらりとした長身と鍛えられた体躯は、長距離の移動をものともせずに、休みなくメスを握り続ける体力を備えている。だが、その甘いマスクに浮かぶ表情はひどく険しい。
(神経に傷をつけずに、病巣を取り除く……か。至難の業だ)
 画面に映し出されたMRI画像に目を凝らし、鷹臣は髭の生えた顎を撫でる。
 元より体毛が濃いほうではないため、中途半端な長さだが、これでも向かう国の風習に合わせ、頑張って生やしてきたのだ。
『前国王の遺児であるサラーヤ王女が脳腫瘍におさかれ生命の危機にある。どうか、手術をして欲しい』――コーディネーターを介し、中東にあるオズマーン王国の現国王から招聘を受けたのは先々週の話だった。
 サラーヤ王女は前国王の遺児であり、現国王は王女の叔父に相当する。若くして亡くなった兄の娘であるサラーヤと、その双子の弟・ナーセルを、現国王は、目の中に入れても痛くないほど可愛がっているらしい。
 王女の脳にできた腫瘍は、すでに脳幹から視床下部付近にまで広がっている。完全摘出手術が難しいだけでなく、すぐ近くには左右の視神経が合わさる視神経交叉があり、たとえ命が助かっても視覚障害が残る可能性が非常に高い。
 絶対君主制であるオズマーン王国において国王は神の化身とも呼ばれる絶対者だ。その親族である王女が患者となれば、たとえどのような名医であろうとも、ミスを畏れて手術などできないだろう。
 事実、国王の代理人としてメールを送ってきたターヒル・スライウィールも、元々はオズマーン王国の宮廷侍医だが、手術に踏み切る勇気はなかったらしい。
(……資格審査も研修も試験もなしに、王サマが特例で医師免許をくれるわけだ……)
 医師免許は、国や州ごとに取得する必要がある。
 だから通常、鷹臣に執刀を望む患者には、米国もしくは日本の、執刀可能な設備のある病院に入院し、手術の順番を待ってもらっている。だが、いまの王女の状態では、面倒な手続きを取っている間に手遅れになってしまいかねない。
 他のだれでもなく、自分がメスを取ることで命を救える可能性があるのなら――どこであろうとも、鞄ひとつで飛んでいく気概はある。
 鷹臣は快諾し、休暇を返上して飛行機に飛び乗ったのだった。

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